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大阪高等裁判所 平成5年(う)91号 判決 1993年5月27日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一一〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人松井忠義作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、量刑不当の主張である。

そこで、所論にかんがみ、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。

本件は、被告人が、遊び仲間と共謀の上、平成元年一月二五日から平成三年七月四日までの間、深夜から未明にかけて前後一八回にわたり、駐車場等に駐車してある普通乗用自動車合計一七台及びその積載物多数を窃取し(原判示第一の番号1ないし16、18)、あるいは新築間もない家屋からテレビなどの物品を窃取した(原判示第一の番号17)という事案と、平成三年七月一一日に当時の自宅において、実包四発を装填した回転弾倉式けん銃一丁及び散弾銃用の実包合計三〇発を所持したという事案(原判示第二)である。

窃盗事件については、被告人らの車窃盗の手口は、針金でまず運転席ドアを開け、次に後部トランクを開けてトランクキーボックスを外して、それを分解してやすりなどで合鍵を作るという巧妙なものであり、賍品の自動車を買い受けてくれる暴力団員から注文があると早速実行に及ぶというものであつて、犯情悪質であり、車以外の窃盗事件についても、被告人が運送屋のトラック運転助手をしていて、荷物を搬送した先の新築家屋には未だ誰も居住していないことを知り、この機会を利用して、テレビなどを持ち出したというもので、これまた犯情悪質である。被告人は、窃盗の実行行為のほとんどを担当して中心的役割を果たしており、窃盗の被害総額は六六〇〇万円を超えるものであり、被害品のうち、被害者のもとに返還されているのは、自動車七台のほか、わずかな積載物品のみであり、被害弁償は一切なされていないのである。

また、実包装填のけん銃所持は、使用の有無にかかわらず、それ自体非常に危険であり、かつ、社会的非難の強い行為である。

加えて、被告人は、強姦致傷、窃盗の罪で懲役四年に処せられた前科があり、昭和六三年一〇月一四日に仮出獄となつて三か月も経過しないうちに、原判示犯行のうち、最初の同第一の番号17の犯行に及んだものであり、右仮出獄後は前記のとおり一時トラック運転助手等をして働いたこともあるが、暴力団組織に属して、定職に就くこともなく、無為徒食の生活を送るなかで、原判示のその他の各犯行を反復したのであつて、このことを併せ考えると、被告人の刑事責任は重いというべきである。

そうすると、被告人は、自分がかかわつた事件については捜査官にすべて自供したと述べて反省の態度を示し、暴力団組織との関係はすでに切れており罪の清算後は知人経営の土木建築関係の会社でまじめに働きたいと述べていること、現在は椎間板へルニアを患つていること、内妻には腎臓病の持病があることなど、被告人に有利と思われる情状を十分しんしやくしても、被告人を懲役四年に処した原判決の量刑(求刑懲役六年)は相当であつて、重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

なお、原判決の原判示第一の各事実についての証拠の標目の記載をみると、例えば「検面」等の略号を使用する旨のことわり書きを付した上、「被告人以外の者の検面」等の欄を設けて、その欄に検察官証拠申請番号を示す数字のみを記載している。本件は簡易公判手続による審理ではないから、有罪判決の理由として証拠の標目を示すに当たつては、誰の供述調書等であるのかを判決書自体で分かるように記載すべきである。右のような記載では、事件に対してどのような立場にある者の供述調書であるのか不明であるから、原判決の原判示第一の各事実についての証拠標目の記載には瑕疵があるとの非難を免れない。

しかし、本件では、犯罪の成立自体には争いがなく、もとより当事者から右の瑕疵を非難する旨の指摘もない。そして、右の各事実は被告人及び一名ないし数名の共犯者との共謀による犯行であるところ、原判決は、証拠の標目として、共犯者の氏名を含め犯行を自供している被告人の供述調書のほか、数字で特定された被害届なども挙示しており、補強証拠の十分性に欠けることはなく、「被告人以外の者の検面」等を除外しても優に各犯行を認定することができるから、前記瑕疵をもつて、原判決を破棄しなければならない程の違法があるとまではいえない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 谷口 彰 裁判官 長岡哲次)

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